学生が小説を書いていたので、少し真似して書いてみる

丸山はいつものように1段飛ばしで階段を登る。

この階段をもう何回登ったのだろうか。大学に入ってから始めた居酒屋のバイト先は西宮北口駅から徒歩で3分。
店はビルの2階にあり、階段の高さとしては3メートルほど。今までの出勤日数と掛け合わせれば富士山登頂に成功しているのではないかと思い、自己満足の笑みがこぼれる。1段飛ばしのスピードを落とすことなく階段を登り切ると、小気味のいい音楽とともに自動ドアが開く。開店前のがらんとした店内を通り抜け、向かって右奥、厨房の入り口でシフトと予約状況を確認し、また笑みがこぼれる。今日も暇そうだ。

厨房の中から威勢の良い挨拶とともに見知らぬ男性が顔を出す。どこかの不倫歌手に似た特徴的なキノコ頭に、切れ長の目をした男は福井と名乗った。同じ市内の系列店から移動になったらしい。
「また店長かわったんすか。」
鍵がすでに開いていたことや、普段自分より早く他のバイトが出勤しないこと、何よりこの店の店長は驚くほど頻繁に変わることから簡単に予想はついていた。が、言ってみる。
「おまえが丸山か。ここのバイト長いんやろ?早速で悪いけど、着替えてこの店のこと教えてくれん?」
福井は足元の冷蔵庫に入った野菜を確認しながら、丸山に声をかける。
「それこの前の店長に教えたばっかりっすよ。ないっすわあ。」
福井は手を止めて丸山を黙って見上げ、「早く」と小さな声で呟くと、また冷蔵庫の中に目をやった。
陽気なのは髪型だけかよ。丸山はシャツのボタンを上から外しながら、更衣室へ急いだ。

丸山は着替えが終わると、店のことを教えた。教えるといってもメニューや接客は他店と同じマニュアルなので、この店の状況や店特有の注意事項について教えるだけだ。

・居酒屋街から若干外れた場所にあるため、あまり売上は見込めないこと
・一つ上の階にはカタカナの(名前は忘れた)怪しい会社があり、たくさんの学生が出入りしていること
・出口すぐの物置に掃除道具を置いているが、本来は3階の人の土地だということ
・休憩はビルの屋上がおすすめだが、灰皿がないのが唯一の欠点であること

説明している間もキノコ頭の店長は在庫確認の手を止めることはないし、こちらに顔を向けることもない。
いくらこちらがバイトとはいえ、初対面にしては失礼な態度にムッとなるが、店の自動ドアの開く音で我に返る。

「2人、いけます?」
気が付けば開店時間になっていたらしい。
スーツを着た小太りの中年の男とその後ろには10歳ほど年下の同じく男が立っていた。
うしろの男はジーパンにマウンテンパーカーというラフな格好で、明らかに不釣り合いな2人である。
どこかで会ったような気がしたが、思い出せない。



次回(未定)に続く。

(おかたく)