突然の出来事

ある日の昼下がり。私は事務所でパソコンと向き合っていた。
右手にはマウス。左手にはネスカフェの珈琲。

ぐっと気温の下がった朝だったが、窓の外から注ぐ日差しは暖かく、心地よい。

今日も事務所は平和である。

…そう思ったのも束の間、突然目の前の扉が開き、3人の当会執行部の学生が入ってきた。

どうやら、一人の男子は足を引きずっており、怪我をしている様子。(以下Kくん)
もう一人は長身の女子。かなり激しい口調でけがをした男子をののしっている。(以下Tさん)
最後の一人は、…理事長?
いや、違った。怪我をした男子に肩を貸している姿はまさしくベイマッ○スである。(以下Nくん)

「ああ!おかたくさん。こいつねー、足ぐねって甲東園で動けなくなってたんすよー。いやあホンマ爆笑っすよ。」

女の子の言葉遣いとは思えないが、どうやらTさんの話によると、Kくんは最近購入したペニー(スケボーの小さめのサイズのもの)を使用して学校へ登校中に足を負傷し、動けなくなっているところを保護されたらしい。

…なんと無様な。

電車の中ではベイマッ○スに抱きつき、道路では諸悪の根源であるペニーに体育座りをして腕を引っ張ってもらって事務所までたどり着いたというのだから、情けない他ない。
当の本人はというと、「折れてたらどーしよ。注射嫌いから病院いやや」と教科書通りのリアクションである。

いつものポジティブはどこへいったのか。WIKIでも見せれば元気になるだろうか。

ひとまず、夕方から近くの病院へ行くことが決まる。

ただ、Kくんには大きな問題があった。「病院まで一人で行けない」のである。

助けを求めるKくんだったが

Tさん「うち、無理やで。予定あんで。」
Nくん「おれも無理や。」

なんとみじめな。しかしTさんはともかく、ベイマッ○スは看護ロボットのはずだが。
そそくさと事務所を出て行ってしまった。
大丈夫と言われるまで離れられないのではなかったのか...

仕方がないので、私がKくんを病院まで送り届けることになった。

左足の使えないKくんの左側に立ち、肩を組む。事務所の階段を下りるとKくんはケンケンをしながらそのまま病院を目指す。

Kくんが立ち止まる。

K「ちょ、ちょっと休憩っす。」

まだ三角公園だぞ。周りの人も異変に気付いてちらちらこっちを見ている。

ただでさえ大人の男性2人が肩を組みながら歩いているのも気持ちが悪いが、一方はぴょんぴょんと跳ねながら移動しているのであるから尚のことだ。

私は仕方がないのでおんぶを提案した。

K「いやいや、恥ずかしすぎるでしょ」

こいつは何を言っているのだろう。この場に及んでまだそんなことをいっているのか。

片足ケンケンでひいひい言いながら歩いている若者に、肩を貸しながら歩くことと、恥ずかしさとしてはさほど変わらないし、むしろ短時間でこの恥ずかしさから解放されるのであればむしろ合理的な方法といえる。

説得の上、Kくんを背中に乗せる。

しかし、まさかこの年になって大学生(しかも男子)をおんぶすることになるとは。

周りからの目が痛い。が、進むスピードは格段に上がった。

K「お、おろしたいです...」

私「降りても歩けないんだから我慢しろ。」

K「じゃなくて、おろしたいです。お金おろしたいんですけど。」

私「!?!?」

なんと保険証を持っておらず、銀行からお金をおろす必要があるらしい。
ここまで不運なのは、日頃の行いが悪いとしか言いようがない。

ATMに立ち寄った後、再度Kくんをおんぶする。

Nのカバンを背負った小学生集団の「え?」という声と共に、お手本のような二度見をいただきながら、ようやく病院に到着した。

診断結果は捻挫だそうで、幸い1週間程度で完治するとのこと。

K「本当にありがとうございました。これからはちゃんと敬語使います。」

今後のKくんの態度改善に期待しか持てない。

(おかたく)