幼児教育の無償化は是か

先日、慶應義塾大学の赤林英夫先生が下記のような記事を投稿された。

幼児教育の無償化はマジックか?――日本の現状から出発した緻密な議論を
赤林英夫 / 教育の経済学
http://synodos.jp/education/19911

最近、政治家などが幼児教育の無償化について、論じ始めていることへの警鐘である。

すでにヘックマンの研究は多くの人々が知るところになった。ヘックマンが米国で行った研究では幼児教育への投資が最も効果的であったという結論になったというものだ。それを踏まえ、わが国でも幼児教育への投資や無償化などが叫ばれている。

しかし、これに対して、教育経済学を専門とする赤林先生は異論を唱えられている。

先生の主張は簡単にまとめるとこんな感じだ。

・そもそもわが国の4歳児、5歳児の95%は幼稚園か保育所に通園している。(それに比べてアメリカの通園率は68%に満たない。)
・したがって、ヘックマンが調査を行ったアメリカと日本とでは幼児教育の現状に大きな差異がある。
・現時点では95%以上の国民が有償であっても子どもを幼稚園又は保育所に通園させており、それを無償にすることは、すでに有償で保育園などに通わせている家庭の負担を軽減しているにすぎない。
・現状では、生活保護等の低所得者層には保育料の減免などが行われており、無償化はそれらの低所得者層を優遇する施策ではない。
・すでに有償で幼稚園等に通っている家庭にとっては、幼児教育の無償化は単にその支出を減らすだけで、その減少分が他の教育活動などに当てられ、一層、格差が増す可能性が高い。

つまり、幼児教育の無償化を行った場合、格差が拡大する可能性が高いことを指摘している。

そして、その上で、幼稚園にも保育所にも通わない(通えない)子どもの中には、極めて困難な環境にある子どもがいる可能性が高く、それらの子どもの捕捉や支援の方が格差を是正する上で重要ではないかと提言されている。

幼児教育の無償化と聞けば、一見、よいことのように思えるが、よくよく考えれば、格差拡大になる可能性が高い。

経済学的視点はこうした点でも非常に重要だと思う(のじま)